シアターP の呟き(もしくは嘆き)

走れエロス


エロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐のアダルトサイトを除かねばならぬと決意した。 エロスにはネットがわからぬ。エロスは、只のフリーターである。口笛を吹き、のんびり遊んで暮らして来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であっ た。きょう未明エロスはYAHOOを出発し、野を越え山越え、十里はなれたこのアダルトのサイトにやって来た。エロスには父も、母もある。女房はない。二 三の内気なエロスは一人暮らしだ。このエロスは、サイトのある律儀な”石田●り子のベッドシーン見れます!!”という文言を迎えようとしていた。動画再生 も間近なのである。エロスは、それゆえ、”同意します”のボタンをクリックしにはるばるサイトにやってきたのだ。まず、誓約書の類を読み飛ばし、それから クリックを連打した。エロスは竹馬の友だと思っていた。しかし14万ティウスである。この”口座に14万ティウスを振り込んでください”と表示されてい る。その友をもう二度と訪ねないつもりなのだ。しかし向こうは訪ねて来るのが楽しみのようである。エロスは、ネットにつなぐ度に”早く振り込んでくださ い”と表示されるのを怪しく思った。ひっそりしている。もうすでに気も落ちて、心の暗いのは当たり前だが、けれども、なんだかサイトのせいばかりでなく、 生活全体がやけに寂しい。のんきなエロスも、だんだん不安になって来た。検索した弁護士サイトに登録して、何があったのか、14万ティウス払わなければな らぬのか、と質問した。弁護士はなかなか答えなかった。しばらくすると毅然とした文言で答えた。


「アダルトサイトは人を殺します」

「なぜ殺すのだ」

「悪心をいだいている、というのですが、誰もそんな、悪心をもってはおりませぬ」

「たくさんの人を殺したか」

「はい。はじめは童貞を。それから素人童貞を。」

「おどろいた。サイトは乱心か」

「いいえ、乱心ではございませぬ。人を信ずる事ができぬ、というのです。このごろはどんなサイトでもお疑いになり、少しでも怪しいサイトには、近づかず、ティウスの請求があっても、決して応じないでください。」

聞いて、エロスは激怒した。「呆れたサイトだ。生かして置けぬ」
エロスは単純な男であった。サイトを、開いたままで、のそのそコントロールパネルに入って行った。 たちまち彼は、”システムの復元”を発見した。検索し、調べ、実行したので、騒ぎは小さくなった。エロスは、自問自答した。


「このサイトでナニをするつもりであったか。言え!」

「性欲を理性の手から救うのだ」